ToMonteItaliaの食旅

イタリア在住のトモンテが、食を中心に、スローライフを紹介するよ

 Food食べ物 20210210182239 Sportスポーツ  Travel旅行  Artアート  Cultureカルチャー  Book本  Plant植物 Other

村上春樹とイタリア

本日1月12日は敬愛している作家村上春樹氏の誕生日で、今日で72歳を迎えられます。
村上春樹ファンの皆様と祝福の気持を共有できたらと思い、今回は春樹氏について綴りたいと思います。

  目次

デビュー作とベストセラーとの出会い

都会的でスタイリッシュな先輩数名から勧められて、デビュー作「風の歌を聴け」に興味を持ちました。実際読んでみると、日本文学独特の湿っぽさがなくドライで新しい感覚の小説だと感じ、アメリカ文学や春樹氏が育った芦屋や神戸の洗練された香りがしました。

村上春樹全作品 1979~1989〈1〉 風の歌を聴け;1973年のピンボール


その後すぐベストセラー「ノルウェイの森」を買い読み、ちょうど思春期だったこともあり、村上ワールドにどっぷりはまっていきました。依存症の始まりです。

ノルウェイの森 (講談社文庫)

作風の魅力

推理小説が好きな友人は、春樹氏の小説は何が言いたいかさっぱりわからんと言います。
個人的には物語の展開や結末よりも、春樹氏の文章の細部にわたる気配りを感じるのが心地良いのです。なので、春樹氏が選んだ言葉1つ1つに注意しながら、丁寧に時間をかけて読むことを好みます。それは丁度、耳を澄まして風の歌を聴く姿勢と似ています。

また、春樹氏の文章からはシュールな絵画が見えます。例えば「1Q84」2つの月。シュールレアリズムや形而上絵画好きの自分にとってはたまりません。この作品、オウム真理教を連想させる宗教団体も興味深いですが、個人的にはリトルピープル2つの月といったモチーフに、より惹きつけられました。

1Q84(BOOK1~3)合本版(新潮文庫)


また、タイトルに魅かれて購入した「スプートニクの恋人」には、ライカ犬は登場しないものの、ドッペルゲンガー現象が使われ、形而上芸術作品として気に入っています。

スプートニクの恋人 (講談社文庫)

ジャズ喫茶経営や渋いお声で音楽ラジオのパーソナリティーをされていた春樹氏は、小説の中に音楽を小道具として頻繁に使われます。
小説の時代背景だけでなく、登場人物の描写に使われることも多い為、人物の趣味嗜好が容易に把握できます。
同時に、欧米のオールディーズ、クラシックなどの多用が、ノスタルジックな感情を刺激し、記憶の奥に輝く想い出の旅に連れて行ってくれます。

「1Q84」の大ヒットにより、小澤征爾指揮シカゴ交響楽団演奏「ヤナーチェック/シンフォニエッタ」のCDについて問い合わせが殺到し、急遽1万枚が生産、出荷されました。後にこの小説に使われたクラシックがCD化されるという、クラシック業界への相乗効果も生み出しました。

サックス演奏を趣味とするイタリア人の親戚も、春樹氏の小説はジャズの名曲が出てくるから好きだ、と語っていました。
音楽は国境を越えると言われています。
勿論本から音楽は聞こえませんが、春樹氏の小説からは心地よいBGMが流れている錯覚に陥ります。物語に音楽を取り込むことにかけて、春樹氏は天才だと思います。

音楽の多用とシュールレアリズム絵画を彷彿させる隠喩表現のとりこになっている自分にとって、村上作品は中毒性があることを実感しています。

イタリア生活

春樹氏は1987年にシチリアとローマ郊外(Prenestino)に一時滞在し、「ノルウェイの森」を執筆されていたことがあります。
イタリアとギリシャでの滞在紀「遠い太鼓」を読むと、その頃の様子がうかがえます。

遠い太鼓 (講談社文庫)


マラソン出場のためにランニングを日課にされている春樹氏が、イタリア人はいつも集団でおしゃべりしながらランニングすると記されているくだりには笑いました。
小説では粋で素敵な世界観を描かれますが、紀行やエッセイでは結構笑える話も満載で、春樹氏の多面性を感じます。中でも、春樹氏の小説からは想像できないメキシコ紀行やうどん紀行は面白いです。

イタリアでの人気

春樹氏は2019年、ラッテス・グリーンツァーネ文学賞(ラ・クエルチャ部門)を受賞され、白トリュフで有名なアルバで記念講演会をされています。
イタリアにおいて人気のある日本文学作家としては他に、三島由紀夫氏、吉本ばなな氏がいます。
三島由紀夫氏はカリスマ性と切腹自殺、右派であったことなども影響し、比較的年配の世代を中心に根強い人気があります。
現在は、春樹氏の本が書店の日本文学のコーナーで最も目立つ傾向にありますが、春樹氏よりも先に吉本ばなな氏の方が、イタリアで多くの本が出版され、若者を中心に人気が出ました。吉本ばなな氏のイタリア語翻訳版が22作品に対し、春樹氏のイタリア語版が13作品なのも関係しているかもしれません。
「ノルウェイの森」については、1993年にタイトル「Tokyo Blues」でイタリア語翻訳版として出版され、ビートルズの曲名で英語版他各国で使われている「Norwegian wood」にタイトル変更されたのは、かなり後の再出版時2006年でした。

タイトルミスはこれに限らず、坂本龍一が音楽担当、デヴィッド・ボウイと北野武が出演した大島渚監督の「映画戦場のメリークリスマス」も、「Merry Christmas Mr.Lawrence」ではなく、わざわざ日本語単語のローマ字で「Furyo 」(俘虜: 戦場で敵軍に生け捕りにされた者。捕虜)とタイトル化され、イタリア人どころかローマ字を見ただけでは日本人にも理解しにくいタイトルになっています。

ノーベル文学賞

世界各国の言語に翻訳され、世界で文学賞を受賞されている春樹氏は、国内より海外との仕事が多くなってきているそうです。
春樹氏は、日本を代表する国際的作家です。この功績から当然ながら、何回かノーベル文学賞候補になられており、未だに受賞されていないのが不思議な位です。翻訳家でもあり、アメリカ文学の影響が強すぎるのか、その理由は様々なようです。ご本人はノーベル賞に興味がないらしいですが、いつか受賞して欲しいといつも願っています。

では改めて、村上春樹様、お誕生日おめでとうございます。
今後とも益々のご活躍をお祈り致します。

そして、最後まで読んで下さった皆様、ありがとうございました。